三井住友銀行と三井住友カードが開始した「Olive Infinite」は、年会費99,000円という強気の価格設定にもかかわらず、大きな注目を集めているようです。
クレジットカード特典だけでなく、SBI証券との連携や「Oliveコンサルティング」を通じて、スマホを使いこなす「デジタル富裕層」に資産運用提案まで含めたサービスを提供するのが特徴となっていて、なぜ今、このような高額な最上位サービスが生まれたのでしょうか?
その背景には、日本の富裕層像の変化と、銀行・証券・フィンテックをまたいだ新しいウェルスマネジメント(富裕層向け資産管理)競争があります。
Olive Infiniteとは何か?
Olive Infiniteは、三井住友フィナンシャルグループの個人向け総合金融サービス「Olive」の最上位ランクに位置づけられた有料サービスで、銀行口座、決済(クレジット・デビット・ポイント払い)、さらに資産運用コンサルティングを一体で提供することが前提とされています。
年会費は99,000円と、国内クレジットカードの中でもトップクラスの水準で、その見返りとして、カード面では「三井住友カード Visa Infinite」と同等のコンシェルジュサービス、空港ラウンジを世界中で使えるプライオリティ・パス、ヘルスケア関連サービスなどが付帯し、利用枠も最大9,999万円と桁違いの設定になっています。
2026年秋には、有償のメタルカード発行や、Visaとのパートナーシップを活かした会員限定イベントも予定されているようです。
ポイント面では、通常利用でVポイント1.0%(クレジット・デビット)、対象コンビニ・飲食店では最大20%還元と、従来の「Oliveプラチナプリファード」クラス以上の厚遇で、さらに、SBI証券のクレジットカード積立でも通常最大4%に対し、条件を満たしたInfinite会員には最大6%まで還元率が上がります。
とはいえ、こうした「目に見える特典」だけでは、このサービスの狙いを完全には説明できませんよね?
重要なのが、三井住友銀行アプリと家計簿アプリ「マネーフォワード ME」、SBI証券をつなぐ「Oliveコンサルティング」を中心とした資産運用アドバイス機能であり、ここにこそ、年会費9.9万円を設定した背景と、従来型のプレミアムカードとの違いが見えてきます。
なぜ「デジタル富裕層」に特化した最上位サービスなのか
Olive Infiniteの公式なターゲットは「デジタル富裕層」とされています。
これは、従来の「富裕層」とは少し違う新しい顧客像で、一般的に富裕層と聞くと、企業オーナーや医師など、対面のプライベートバンキングでじっくり相談するイメージが強いかもしれませんが、近年はIT・スタートアップ関係、上場企業の中堅〜若手社員、ストックオプションやインデックス投資で資産を築いた人など、「スマホネイティブに近い層」が資産を増やし始めています。
こうした層は、わざわざ銀行の店舗に出向いて窓口で相談するよりも、スマホアプリ上で自分の資産状況をいつでも確認し、オンラインで完結する形のコンサルティングを好む傾向があります。
その一方で、資産額が増えるにつれ「ポイントが何%」といった表面的なお得さだけではなく、「自分の資産配分は適切か」「老後・教育資金は足りるのか」といった中長期的な不安も大きくなります。
銀行側から見れば、この「デジタル富裕層」は、支店ネットワークを前提にした従来型の富裕層ビジネスではつかみきれない顧客層で、そこで、オンライン完結を前提としたOliveをプラットフォームにしつつ、SBI証券との連携で投資商品を提供し、さらにマネーフォワードMEのデータを活用して「資産を見える化」しながら提案するスキームを構築。
年会費99,000円という価格は、一見すると「高いプレミアムカード」としての顔を持ちますが、裏を返せば「相応の資産を持ち、かつデジタルに慣れた層だけを選別するフィルター」としても機能します。
実際、三井住友銀行とSBI証券の残高合計5,000万円以上で年会費が無料になる条件を設けている点からも、「一定以上の資産保有者向けのウェルスマネジメント入り口」として設計されていることが読み取れます。
ポイント合戦から「体験+コンサル」へ
日本のクレジットカード市場では、ここ数年、ポイント還元率や入会キャンペーンでの競争が激しくなってきました。
三井住友カード自身も、対象コンビニ・飲食店での高還元や、SBI証券とのクレカ積立ポイントなどで、多くのユーザーを獲得してきた背景があります。
しかし、ポイント競争には限界があり、長期的には「どこかがさらに上乗せする」イタチごっこになりやすい構造を持っています。
Olive Infiniteは、こうした単純なポイント合戦から一歩踏み出し、「体験」と「コンサルティング」をセットにしたモデルへの転換を意識していると考えられ、具体的には、Visa Infiniteクラスのコンシェルジュサービスや限定イベントといった非日常的な体験に加え、「専門家チーム」による資産運用アドバイスを提供する点が、従来カードとの大きな違い。
同じOliveユーザーであっても、Infinite会員とそれ以外では、コンサルティングの深さに差がつく設計になっていて、一般のOliveユーザーもOliveコンサルティングのアプリやチャット相談は利用できるのですが、Infiniteとプラチナプリファード会員はアドバイザーの指名が可能となり、Infinite会員は「専門家チーム」によるより高度な相談にアクセスできます。
これは、「誰でも同じ窓口に相談できる」従来のマス向けサービスから、「属性に応じて提供するサービスレベルを変える」方向に舵を切っているとも言えます。
結果として、カードの価値は「何%ポイントがつくか」だけではなく、「どのレベルの相談相手や体験にアクセスできるか」という無形の価値へとシフトしていき、Olive Infiniteは、年会費の高さを活かし、こうした無形の部分に重心を移す試みとも捉えられます。
銀行×証券×家計簿アプリ連携がもたらす新しい資産運用体験
Olive Infiniteを理解するうえで欠かせないのが、「Oliveコンサルティング」を中心にしたデータ連携の仕組み。
三井住友銀行アプリには、家計簿アプリ「マネーフォワード ME」が統合されていて、銀行口座やカード、他行口座、電子マネーなどのデータを集約して家計・資産の全体像を見える化できるようになっています。
このデータを、Oliveコンサルティングが資産運用アドバイスに活用するというわけですね。
具体的には、現在の資産配分(現金、国内株式、外国株式、投資信託など)と、専門家が考えるモデルポートフォリオを比較し、「リスクが偏っていないか」「将来の目標に対して不足していないか」といった観点から改善ポイントを提案します。
その上で、診断結果に表示された銘柄を、そのままSBI証券のアプリにログインして購入できる動線が用意されています。
従来であれば、「家計簿アプリで現状把握」「別の証券口座にログインして取引」というように、ユーザー側が自力で複数のサービスをまたいで操作する必要がありました。
Olive Infinite/Oliveコンサルティングは、この分断を埋め、「見える化→診断→提案→取引」を一連の流れとしてアプリ内で完結させようとしています。
この構造は、単に手間が減るというだけでなく、銀行・証券・フィンテックが連携して「お金の流れ全体」を把握しやすくする点で、事業者側にも大きなメリットがあり、資産残高や取引履歴に基づいて、より精度の高い提案や、ターゲットを絞ったキャンペーンが可能になります。
とはいえ、個人情報・データ活用の観点においては、どこまでを許容するか、ユーザー側のリテラシーや同意管理も今後の論点になっていくでしょう。
利用を検討する人への視点
Olive Infiniteの登場は、日本のマネーサービス全体にもいくつかの波及効果をもたらす可能性があります。
第一に、銀行・証券・カード・家計簿アプリといった、従来は別々だったサービスが、「プラットフォーム」の上で統合されていく流れが加速していくでしょうし、特に、富裕層・準富裕層向けでは「一つのアプリで残高も投資も相談も完結する」ことが標準になっていく可能性があります。
第二に、プレミアムカード・富裕層向けサービスの価値基準が、「マイル・ポイント」「年会費無料条件」から、「どの程度の専門家に相談できるか」「どれだけ自分に合った提案をしてくれるか」といった質的な面にシフトしていくと考えられ、Olive Infiniteのように、資産残高条件で年会費を実質無料にするスキームは、他社の富裕層戦略にも影響を与える可能性があります。
利用を検討する個人としては、年会費9.9万円を「高級カードのステータス料」と見るのか、「資産運用アドバイスや銀行・証券連携も含めた総合サービスの利用料」と見るのかで評価が変わります。
すでに一定の資産があり、今後の資産運用や相続、退職後のマネープランに不安を感じている人にとっては、「ポイント+相談+体験」がセットで提供されることに価値を見いだせるかがポイントになるでしょう。
一方で、まだ資産規模が小さく、「これから積立を頑張っていきたい」という段階であれば、同じOlive内の下位ランクや他社カード・ネット証券の組み合わせでも十分という見方もできます。
Olive Infiniteのようなサービスは、「誰にとっても得」というより、「一定の資産規模とニーズを持つ人にとってフィットするかどうか」を見極めるべき選択肢といえそうです。
Olive Infiniteは、単なる「ポイント高還元の最上位クレジットカード」ではなく、銀行・証券・家計簿アプリをまたいだデータ連携を前提に、「デジタル富裕層」向けのウェルスマネジメントを本格展開するためのプラットフォームとして設計されています。
年会費9.9万円という価格や、高い残高条件による年会費無料特典は、「一定以上の資産を持ち、デジタルにも慣れた層」を選別し、集中的にサービスを提供するための仕組みでもあり、その背景には、日本でも「オンラインで完結する本格的な資産運用相談」を求める層が増え、ポイント競争だけでは他社との差別化が難しくなっているという構造的な変化があります。
今後は、こうした「体験+コンサル重視」の富裕層ビジネスが、他の金融グループやフィンテックにも広がっていくことでしょう。
